Mizolog

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『アフターデジタル』の感想と活用方法をまとめてみる

著者のプロフィール

■藤井保文さん

株式会社ビービットにてコンサルタントとしてサイト・UX改善を実施。現在は上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、モノ指向企業からエクスペリエンス指向企業への変革を支援を行う。

https://www.bebit.co.jp/

 

尾原和啓さん

マッキンゼーGoogle楽天リクルートなどを渡り歩く異色の経歴をもつ、気鋭のIT批評家。『モチベーション革命』などの著書で有名。

 

 

 

アフターデジタルとは

タイトルでもあるアフターデジタルとは、リアルがデジタルに包括された世界観のことである。日本をはじめとした現在のビフォアデジタル世界と比較すると、以下のイメージになる。

 

【ビフォアデジタル】リアルでいつも会えるお客様が、たまにデジタルにも来てくれる。

 

【アフターデジタル】デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアルにも来てくれる。

 

 

 

藤井さんが働く中国では、こうしたオンラインとオフラインの主従関係逆転を活かして平安保険やフーマーといった企業が新たな顧客体験を発明している。

 

www.itmedia.co.jp

 

note.mu

 

彼らは「インターネットをビジネスにどう活かすか」ではなく「オフラインがない世界でどうビジネスを展開するか」という視点で働いており、この考え方はOMO(Online-Merge-Offline)と呼ばれる。

 

このOMOこそがアフターデジタル化が進んだときに、日本でもビジネスを行ううえで重要な考え方になるのではないか、というのが本書の大筋である。

 

アフターデジタルの条件

ではなぜ中国ではOMOという概念が広がっているのだろう。

OMOの提唱者である元GoogleチャイナCEOであり、現在はシノベーションベンチャーズを率いる李開複はOMOの発生条件として以下の4つを上げている。

 

スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及

・モバイル決済浸透率の上昇

・幅広い種類のセンサーが高品質安価で入手可能になり、偏在する

・自動化されたロボットやAIの普及

 

この4つの条件が満たされると、あらゆる顧客データが取得可能になる。

オンラインとオフラインの境界がなくなり融合していく。

 

日本でOMOが発生する上では「モバイル決済浸透率の上昇」が鍵になりそうだ。

 

国内各プレイヤーによって公表されているモバイル決済関連の利用者データを見ると、日本でOMOが発生するにはまだまだ時間がかかるのかもしれない。

 

モバイルSuica:登録者数500万人(2018年時点)

PayPay:登録者数700万人(2019年5月時点)

LINE Pay:グローバルMAU430万人(2019年12月第1四半期)

 

 

アフターデジタル世界でのビジネス

アフターデジタル世界では企業を起点としたバリューチェーンから、顧客を起点としたバリュージャーニーへとビジネスモデルを変革する必要がある。

 

なぜなら製品単体でしかユーザーに価値提供できなかった時代から、体験全体での価値提供を行うことができるようになるからだ。

 

Yahoo JAPANを例に上げるならば単なる検索サービス、QR決済サービスの提供者ではいけない。

 

行動と購買データを紐づけながら常に最適な情報や購買体験を、

提供し続けることがバリュージャーニーと言える。

 

そのアフターデジタル世界のビジネス原理は2つ。

  • 高頻度接点による行動データ×エクスペリエンスのループ
  • 最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なタイミングで提供する

 

高頻度接点とはカスタマーサクセス理論における、

「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」である。

 

 

1on1の個別対応とワークショップやイベントなどの複数対応、

人的コストのかからない不特定多数との対応という異なる接点で、

顧客に上質な体験を提供してデータを取る。

 

それをもとに更にサービスを改善していく。

 

個人的にはGoogleの営業の活動は見ると、

このカスタマーサクセスをしっかり抑えているように思う。

 

またデジタル化が進むとAIやデータプラットフォームが進化することで、

単なるターゲティングに留まらない、

モーメントや趣味嗜好も捉えることができるようになる。

when、what、howという視点でより最適な体験を個人に提供できるようになる。

 

実際に中国ではグループ全体で情報共有を行うための、

自社プラットフォームが開発されているそうだ。

 

trillionsmiles.com

 

 

グループ会社がサービスレベルでのUXの品質を管理して、

ホールディングスがバリュージャーニー全体におけるCXの品質全体を管理する。

テクノロジー会社がその基盤を支えるという位置づけである。

 

バリュージャーニーを作るには

バリュージャーニーモデルの企業を作るためには、

UXグロースハックとUXイノベーションが重要である。

 

UXグロースハック

UXグロースハックとは高頻度接点のデータ取得を活かした高速プロダクト改善である。オンライン、オフライン問わず既存の接点からデータ収集を行い、分析して企画を練り、施策に落とし込む。

 

この中には得られたデータをAIで自動最適化して個別のユーザー特性に合わせる「UX最適化」と、データをもとに新たな機能や体験を提供する「UX企画」が存在する。

 

UXグロースハックが担当するのは後者の「UX企画」になる。前者は既存ビジネス内での最適化であり、それだけで事業は拡大しないからだ。

 

UXイノベーション

UXグロースはデジタルを活かした新たな顧客接点の創出である。

Amazon GOやGoogle Home、フーマーなどをイメージするとわかりやすい。

 

とはいえ接点を作っても使われなければ意味がない。

 

「顧客の置かれた状況を把握して、そこによりハッピーな体験を以下に作るか」

という視点が必要であり、マーケターのスキルが問われる領域になる。

 

trillionsmiles.com

 

 

感想

中国での事例を参考にしており、近年トレンドのデータドリブンやCX、UX、IoTの背景や概念が非常にわかりやすく整理されていた。

 

少なくともデジタルサービスに関わる仕事をしている人は必読だと思う。

 

とはいえGAFAに比べると自社がUXイノベーション領域で圧倒的に出遅れていて悲しい。会社の未来は本当にモバイル決済の普及に関わっていると思うし、近年の投資理由も理解できた。

 

あと残る道としてはデータを活用した、クライアントのバリュージャーニーモデル支援もあるかもしれない。

 

日系企業がCX、UXの土壌が無い中で色々と試行錯誤し始めているようなので、

この辺を自社データをもってコンサルティングできる様になると、

光明が見えてくるのかもしれない。

(自社にそんな人材がいるのか甚だ疑問だが)

 

www.itmedia.co.jp

 

2,200円とは思えない示唆に富んだ一冊なので、

本当におすすめである。